本記事では、日本語教育能力検定試験の試験範囲でもあり、
日本語教師が日々の授業でも使える『教授法』をテーマに解説します。
【教授法】日本語教育の代表的な教授法9つを解説!
日本語教育業界でで研究・実践されている代表的な教授法を9つご紹介いたします😇
日本語教育だけでなく、英語などの外国語教育にも使えますので、
言語教育に携わっている方のお役に立てると思います。
ぜひ最後までご覧ください。
オーラル・メソッド
オーラル・メソッドは、1922年に来日したイギリス人のパーマーが
日本人への英語教育に使用していた教授法です。
直接法(学習者の母語を使用しない教え方)での授業が前提ですので、
様々な国籍の学生が集まるような、日本国内の日本語学校でよく使用されています。
オーラル・メソッドの特徴には、
・授業では学習者の母語を使用しない。(教材には母語での解説を記載。)
・学習し始めて3〜6週間は発音指導や口頭練習のみ。
・レベルが進むにつれ、他の練習方法や教材を取り入れる。
・読み書きよりも口頭練習に注力している。
・解説よりもドリル的練習に注力している。
などがあります。
参考:『日本語教授法の現状と将来について』(澤田田津子,1990)
文法対訳(翻訳)法
文法対訳(翻訳)法は、名前の通り対訳/翻訳練習をメインで行う教授法です。
中学・高校の英語の授業でこの教授法による授業を受けた方も多いでしょう。
文法対訳(翻訳)法の特徴には、
・文単位で正確に翻訳をすることが目標。
・音読をすることもあるが、発音の正確さは重視しない。
・テキスト、母語対訳、母語訳つきの語彙リストを使用する。
・教師の負担が少ない。
などが挙げられます。
問題点としては、
・リスニングやスピーキングの力が養われない。
・一語一句を丁寧に翻訳するため、反応に時間がかかる。
・「音読→学習者の翻訳→教師からの指導」というワンパターンの授業になる。
などが指摘されています。
参考:『語学教育に於ける文法翻訳法と直接法』(國弘保明, 2015)
直接法 / ナチュラル・メソッド
直接法は、学習者の母語を用いず、日本語だけを使って指導する教授法です。
前項の文法対訳(翻訳)法では音声面の学習ができない、という批判から考案されました。
赤ちゃんが母語を習得する時、1つ1つ文法や語彙の解説を受けることはないですよね。
この「第一言語習得過程」をモデルとして提唱されています。
『全ての学習項目は、コミュニケーションの中で段階的に習得する』と考えられています。
直接法の特徴には、
・「聞く・話す」の練習が先で、「読む・書く」は後。
・適切な例文を提示し、目標言語の直感を養う。
・語彙は実物を見せたり、絵を見せたりして指導する。
・文法も帰納的に学習させる。
などが挙げられます。
問題点としては、
・学習者にとって不安や心理的負担が大きい。理解できない場合もある。
・抽象的な語彙や表現の指導が極めて困難。
などがあります。
参考:『語学教育に於ける文法翻訳法と直接法』(國弘保明, 2015)
トータル・フィジカル・レスポンス / TPR
トータル・フィジカル・レスポンスは、
1960年代にジェームズ・アシュラーが提唱した教授法です。
命令を聞いた学習者が、全身を使って反応することで目標言語を習得します。
この教授法も幼児の母語習得の過程をモデルとしています。
トータル・フィジカル・レスポンスの特徴として、
・聴解力と発話力の養成に重点を置いている。
・学習者の母語を使用しない。
・発話は強制しない。
・「リスニング力の獲得→スピーキングの練習」という流れ。
などがあります。
ただ、実際に使用する場合、
・動作指示が明確で簡潔でなければならない。
・指示動作と指示表現は一対一でなければならない。
・指示表現には毎回同じ表現を使わなければならない。
など、教授法使用上の留意点が多いです。
参考:『初級中国語授業における TPR の実践』(勝川裕子,2017)
ナチュラル・アプローチ
ナチュラル・アプローチは1980年代にクラッシェルとテレルによって提唱された教授法です。
入門期は特に学習者の聴解力のを養うことを重視しており、
発話は学習者が自発的に行うまで強制しません。
未習の語彙や表現を含む文を聞かせ、未修項目の意味を推測させます。
学習者が推測できないとき、教師は繰り返したり言い換えたりしてサポートします。
ナチュラル・アプローチの特徴は
・大量の音声インプットを与える。
・学習者に「既習項目+α」を提示して、意味を推測させる。
・教師は繰り返しや言い換え、ジェスチャーの追加などで学習者の理解を促進する。
などがあります。
問題点として、
・「既習項目+α」の提示だけでは、実際の言語習得には不完全である。
と指摘されています。
参考:『日本語教育における聴解教育の変遷と展望』(金庭久美子,2005)
オーディオ・リンガル法
オーディオ・リンガル法はアメリカのミシガン大学の教授フリーズが提唱した教授法で、
1930年〜1960年に主流であった「構造主義言語学」の考え方に基づいています。
「構造主義言語学」は、「言語は記号の体系であり、その体系を支える
構造を明らかにすることで言語が理解できる」という考え方に基づいた学問です。
様々な問題点が指摘されているものの、現在でも主流な日本語教授法の1つです。
この教授法を前提として作成されたテキストも多く、
日本国内の大学に所属する留学生への授業などでよく使用されています。
オーディオ・リンガル法の特徴には
・口頭練習、文型練習を重視する。
・読み書きのための勉強であっても「口頭で練習する」ことが必須である。
・「文型の暗記と模倣→文型練習→代入練習→会話練習」という流れ。
などがあります。
オーディオ・リンガル法の問題点として、
・同じ文型にも複数の意味や用法があり、説明が困難である。
・教師主導の機械的な授業になり、学習者が飽きやすい。
・文型の暗記ができても実際のコミュニケーションには直結しにくい。
などがよく挙げられます。
これらの問題を解決するために考案されたのが、次の『コミュニカティブ・アプローチ』です。
参考:『日本語教授法の現状と将来について』(澤田田津子,1990)
コミュニカティブ・アプローチ
コミュニカティブ・アプローチは、前項のオーディオ・リンガル法の
問題点を解決するために考案された教授法です。
コミュニケーション能力の育成に重点を置いています。
コミュニカティブ・アプローチの特徴には、
・ロールプレイ、応答練習、タスク練習、
インフォメーション・ギャップなどの練習方法を取り入れる。
・学習目的や学習目標を明示して、目的意識を植え付ける。
・学習者が発言しやすい環境を整える。
などがあります。
※練習方法について補足
・「ロールプレイ」は、場面を設定し、
学習者に役を演じさせる練習方法です。
・「応答練習」は、教師/学習者が質問をして、
学習者/他の学習者に返答させる練習方法です。
・「タスク練習」は、学習者にタスクを課して、
そのタスクの達成を目的とする練習方法です。
・「インフォメーション・ギャップ」は、学習者のペアを作り、
それぞれに異なる情報を与え、日本語を使って
お互いの持つ情報を伝えるという活動です。
導入はオーディオ・リンガル法で、コミュニカティブ・アプローチの考えに基づいた
練習方法を取り入れることもできるので、現行の授業でもぜひご活用ください。
参考:『日本語教授法の現状と将来について』(澤田田津子,1990)
サイレント・ウェイ
サイレント・ウェイは、心理学者のガッテーニョが提唱した教授法です。
教師は原則沈黙し、カラーチャートや指示棒を使用して学習者に発話を促します。
学習者が自分で言語規則を発見する必要があります。
教師は学習者へ気づきを与えるサポーター的な役割を果たします。
サイレント・ウェイの特徴として、
・教師は基本的に話さない。
・学習者の自律性が必要。
・学習者が自分で気づいて学ぶので、記憶が定着しやすい。
などが挙げられます。
問題点としては、
・少人数でないと難しい。
・解説がないので学習の進みが遅い。
などがあります。
授業運営の中でこの教授法をメインで行うのは難しいですが、
少人数クラスの教室活動で試してみると、意外と楽しいかもしれません。
サジェストぺディア
サジェストペディアは、1970年代に精神療法医ロザノフによって提唱された教授法です。
医学分野の「サジェストロジー(暗示学)」を教育分野に応用しました。
「人間は本来、『学ぶ喜び』を持っている」
「精神的にリラックスした状態で集中力が増大する」という考えが原則となっています。
サジェストペディアの特徴としては、
・学習者をリラックスさせるための環境を整える。
(クラシック音楽を流す、居心地のいい椅子を準備する、など)
・教師が音楽に合わせて朗読をする。
などがあります。
上記は一例ですが、とにかく
・「言語学習は楽しいことだ」というメッセージを伝える
・学習者がリラックスできる環境を整える
という点がポイントです。
最後に
本記事では、日本語教育で使用されている代表的な教授法を9つご紹介しました。
皆様のお役に立てましたら幸いです😇