日本語の授業作りで悩んでいる人「日本語の授業構成を考えるのが難しいな…。 効果的な授業をしたいけど、どう教えるべきがよくわからない…。第二言語習得論とかを意識するのが大切みたいだけど、どう授業に生かせばいいんだろう…。具体的な方法を教えてください。」
このような疑問に答えます。
・第二言語習得論の概要をわかりやすく解説
・第二言語習得論をしっかり学びたい方へ書籍紹介
・授業で生かせる第二言語習得論の重要ポイント
この記事を書いているわたしは、日本語教育学科を卒業しており、現役の日本語教師です 👩🏫当ブログでは日本語教師向けた「ためになる」情報や時短ツールを発信しています。
日本語教師の方のよくある悩みで、「日本語を効果的に教えたいが、方法がわからない…」という点があると思います。
私も授業作りやカリキュラム開発の際、何を基準にすればいいのか、どうすれば最も効果的な日本語学習につながるのか、大変悩んでいました…。
しかし長年研究され、ある程度確立されている第二言語習得論を学ぶことで、自身の授業作りやカリキュラム開発に自信が持てるようになりました。そこで今回は「第二言語習得論」について、できる限りわかりやすく解説していこうと思います。
第二言語習得論とは
第二言語習得論とは、既に母語を習得した人がどのように第二言語(外国語)を学習するか、という過程を研究する分野です。
みなさんは学校や教室で英語などの第二言語(外国語)を学習した経験があるかと思います。自身の学習経験から、「外国語はこのように勉強すべきだ」「この勉強法が効果的だ」という経験則があるでしょう。しかし、みなさんと異なる母語を持つ方が、日本語を学習する時にも同じやり方が通用するとは限りません。
このようなギャップをなくすため、学習者の第二言語(外国語)習得過程やそのメカニズムを科学的に明らかにするのが「第二言語習得論」です。
第二言語習得論を授業に取り入れるべき理由
ネット記事や教師同士の情報交換の場で「この教え方が上手くいった!」「こんな授業作りが効果的だった!」というのは、個人の体験談でしかありません。もちろん参考になりますし、取り入れて上手くいくこともありますが、科学的根拠や確実な再現性はありません。
一方、第二言語習得論は立派な学問です。様々な研究者が仮説・検証を繰り返しており、論文も多数あります。第二言語習得論を学んだからといって、すぐに教え方が上手くなるわけではありません。しかし、楽しく効果的な授業作りのヒントを知ることはできます。
第二言語習得論という科学的根拠に裏打ちされた理論を元に授業やカリキュラムを組み立てることで、学習者が効率的に日本語を学べるようサポートできるようになるでしょう。
第二言語習得論を学ぶためのおすすめ本3選
本記事では、第二言語習得論のいくつかの仮説を紹介しています。詳しく第二言語習得論について学びたい方には、以下のような書籍がおすすめです。
第二言語習得について日本語教師が知っておくべきこと
第二言語習得論について、初めて学ぶ方におすすめの本です。専門用語も丁寧に解説されており、スラスラと読める印象です。
日本語を教えるための第二言語習得論入門
こちらも入門書として読みやすい本です。実例が多く載っており、練習問題もついています。第二言語習得論についてがっつり学びたい方におすすめです。
言語はどのように学ばれるか―外国語学習・教育に生かす第二言語習得論
こちらは専門書の中では比較的読みやすいものです。様々な研究結果が掲載されています。原作が世界中で定評を得ているもので、それを日本語に翻訳したものです。初めて第二言語習得論を学ぶ方にはちょっと重たいかもしれませんが、上記2冊を読破した方には読み応えがあると思います。
第二言語習得論を授業で活かす例
第二言語習得論を詳しく学びたい方は、上記のような書籍を読むのがおすすめです。「ちょっと授業に使えるコツが知りたい」という方向けに、授業で活用しやすい仮説の紹介と、授業での活用例をご紹介します。
学習言語の発達段階
第二言語習得の過程では、多くの学習者が同じ過程をたどるということがわかっています。下の表は、日本語の発達段階を示したものです。上から下の順に言語の学習が進みます。
言語の処理能力 | 形態素 | 統語 |
1.単語の処理 | 【活用なし】 ・〜を食べます。 | 【シンプルな文】 ・〜だ。 ・〜です。 ・Vます。 |
2.品詞の差別化 | 【丁寧形の活用】 ・〜を食べました。 ・〜を食べません。 | 【目的語のあるシンプルな文】 ・SOV |
3.句の処理 | 【アスペクトなど】 ・〜を食べています。 | 【主題の「は」】 ・ごはんは食べました |
4.文の処理 | 【動詞の接続助詞】 ・〜を食べれば、… ・〜を食べたら、… | 【受け身、使役、授受など】 ・ほめられる。 ・食べさせられる。 ・教えてくれる。 |
5.複文の処理 | 【連体修飾節】 ・父からもらった本を〜 | 【埋め込み節】 ・〜ことを知っている。 |
初級前半で学習するような文法しかないように見えます。しかし、学習者は習えばすぐに発話できるようになるわけではありません。上級になっても不正確な文を作ることは多々あります。また、一度習得したように見えても、また忘れてしまったりミスをするようになることもあります。
学習者の発話から発達段階を見極め、教師として適切なフィードバックができるようになれば、より効果的な授業作りができそうです。
母語の影響
第二言語習得には、学習者に共通の発達段階があると上記で述べました。しかし、学習者の母語によって特徴的な言語発達をとげることも多いです。
下の図は、英語を基準とした他の言語の発音と文法の違いの開きを示しています。
日本語は、韓国語や中国語、タイ語、ベトナム語などと比較的距離が近いです。このような言語が母語であれば、文法や発音に類似点が多く、学習者進みやすいというメリットがあります。逆に、英語やドイツ語、スウェーデン語などとは距離が遠いため、「発音や文法が母語とは根本的に違う」ということ事前にしっかり伝えておくことで、混乱を防げるかもしれません。
入力仮説(インプット仮説)
言語を習得するためには、理解可能な入力(インプット)を受けることが必要だという考え方です。第二言語習得を促進するのは、学習者の現在のレベルより1段階上のレベルの入力(インプット)だということです。
この仮説では、学習者が「話すこと」よりも「理解すること」が重視されています。適切なレベルの入力が十分に与えられれば、自然と発話や文法理解も進む、という考え方です。
実際の授業では、入力(インプット)だけに力を入れてしまうと、発話などのアウトプットが弱くなってしまいます。しかし、リスニングや読解などのインプット型の学習については、学習者の現在のレベルより1段階上のレベルの入力(インプット)を適度に利用するのは効果的です。
動機付け
動機付けは、第二言語習得へ大きな影響を与えると考えられています。動機付けには「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2種類があります。「外発的動機付け」は、親からの期待や、就職に有利である、というような外からの圧力のことです。「内発的動機付け」は、学習そのものに興味や意味を見出して行う学習です。
動機付けに関する研究によると、初めのは外発的動機付けがきっかけであっても、学習を進めるにつれて内発的動機付けに変えていくことが重要だと考えられています。
教室には様々な学習者がおり、中には「日本で働くために日本語を勉強している」「お金を稼ぐことだけが目的だ」というような方もいるかもしれません。しかし、日本語学習の楽しい面や興味深い文化などを伝え、内発的動機付けの一助となれるような授業ができれば、学習者の習得速度も早まることは間違いありません!
認知スタイル
認知スタイルは、動機付けと同じくらい第二言語習得に影響を与えると考えられていいます。認知スタイルとは、学習や課題にどのように取り組むかという個人的思考のことです。
ここでは、「場依存型」と「場独立型」を紹介します。「場依存型」の認知スタイルを持つ学習者は、社交的で、他者に依存しやすいという傾向があります。逆に「場独立型」の認知スタイルでは、物の見方が自分主体であり、他人と自分は無関係であるという考え方をしています。
これらの認知スタイルと第二言語習得の関係性について調べた研究では、「場独立型」の学習者の方が第二言語習得に成功しやすいという結果が出ました。教室の様々な刺激の中から自身にとって重要な情報を積極的に取り出すことができたためと考えられています。
しかし、認知スタイルは時と場合によって変化するものです。また、「場依存型」の学習者も「社交的でコミュニケーションスキルが伸びやすい」などの利点があります。どちらのスタイルだから良いとか、ダメとか、という評価をするのではなく、その場その場で学習者にあった指導法ができるよう、教師が準備しておくことが大切です。
最後に
というわけで、本記事では、
・第二言語習得論の概要をわかりやすく解説
・第二言語習得論をしっかり学びたい方へ書籍紹介
・授業で生かせる第二言語習得論の重要ポイント
このような内容を解説していきました。本記事にご納得していただけたら、ぜひ他の記事もご覧ください。